アロイス・カリジェ「フルリーナと山の鳥」岩波書店
11月1日になりましたね。このところの年長さんの生徒の皆様のご成長ぶりには、目を見張るものがございました。1日1日が、大人にとっては、日々の「経験」の積み重ねくらいでしかないものが、年長児のお嬢様にとっては直に「成長」へと繋がる凄さ、素晴らしさに圧倒されるような思いでおりました。本当に、小学校受験というものは、最後まで諦めずにひたすら歩み続けられた方が合格をいただけるのではないでしょうか。頑張れば、昨日からまた一段、ご成長されたお嬢様が目の前にいらっしゃるわけです。特にこの時期のご成長につきましてはそのような感がございます。本日、皆様が、ご無事に、お試験をお受けになられますよう、心からお祈り致しております。
さて、およそ1年前の記事「手の中の光」の中で、
「木に登り、星に手を伸ばす人がいる。
星に届くことを信じて下さい。
もう、星は既にその光をあなたの手に届けているのです。」
ということを書かせていただきました。1日1日が大人にとっては、経験の積み重ねくらいでしかないものと申し上げたばかりではございますが、成長も少しはあるのかどうかは別にして、1年経ちましたブログを振り返りますと、気恥ずかしさもございますね。当時、なんとこの記事の箇所のお写真をiPhoneの待ち受け画面にして下さったお母様がいらっしゃり、恐縮しつつ、そのお母様にもお伝えしたいと思いながら1年が過ぎてしまいましたが…その記事を書くにあたり、イメージしておりましたのが、こちらの「フルリーナと山の鳥」の少女が木に登って空に手を伸ばしている絵でございました。本日は、少しこのご本のご紹介をさせていただけましたらと存じます。
作者は、アロイス・カリジェと書かせていただいておりますが、彼は絵画を描き、(この本に関しましては、それほど絵の持つ力が大きいと思います。)文章のほうはゼリーナ・ヘンツが書いております。また、訳者は、おそらく皆様も子供の頃胸を躍らせた本の多くを訳されていらっしゃる大塚勇三さんです。私は岩波書店から出ている、カリジェの絵本全集(全6冊)を持っておりますが、1冊でもこちらのご本はお求めになれるかもしれません。(また、ちょうど現在、「銀座ナルニア国」さんで、「ウルスリのすず」の原画展を開催していらっしゃると存じます。)
「フルリーナと山の鳥」は、フルリーナという女の子が山の夏小屋で過ごした素晴らしい出来事が綴られています。ある日、フルリーナは、咲き乱れる山の花の中で、明るい光を浴びてうっとりと岩に座っているうちに、花の輪に日の光を捕まえたくなりました。その時、助けを求める鳴き声が聞こえ、フルリーナは狐に襲われた鳥のヒナを1羽保護します。フルリーナはそのヒナを一生懸命にお世話し、守ります。フルリーナが木に登り、空に手を伸ばしているこの絵は、その大事な小鳥が鳥小屋から抜け出し、白樺の木のずっと上の枝に止まっているのを連れ戻そうとしているところでした。徐々に、フルリーナはこの大切な小さい山の鳥が、外の世界で自由にしなければならないと気がつきます。そこで彼女は、辛い気持ちで岩に登り、お兄さんに自分の代わりに鳥を空に放してもらうのです。文章は淡々とした表現で書かれていますが、絵から伝わる情景が本当に多くを物語っているのです。そして、フルリーナは、小鳥がひどい目にあっていないかと気になり、山を登っていきました。
「この氷河の淵に来ると、立ち止まって、熱くなった額を雪で冷やしました。疲れた体を休めながら辺りを眺めましたが…あの山の鳥の姿はありません。あたりは、シーンと静かで、がらんとして、ただマーモット(アルプスなどに住むリスにいた動物)の鳴き声が聞こえるばかり…」
この、フルリーナの愛情と責任感と、1人で行動を起こした勇気、そして誰もいない静けさの中で、自分の額を雪で冷やした経験こそが、彼女の人生で、困難に出会った時、また判断を迫られた時に、「たった1人になれる力」につながると考えます。「たった1人になれる力」を、私はぜひ、お子様皆様の中に培っていただきたいと願っております。人は、子どもの時に、どのような形であれ、たった1人で何かを求めて行く経験が必要ではないでしょうか。その時、その子は、自分と友達になれるのではないかと考えます。そして自分と友達になった瞬間、その子は自信の中で、倍の存在になれるのです。この小学校受験と言う経験は、アルプスの山を、小鳥を訪ねて登ることや、ウルスリが大きな鈴を取りに雪山に出かけたことと形は異なりますが、お嬢様が、お母様から離れ、1日自分で精一杯判断して来る経験には他なりません。その孤独を孤独と思わず、誰を差し置いて登ろうともせず、たった1人で、自分のお力をフルに使おうと頑張られ、その時一緒に肩を並べている未来の友が周りにいるのです。この貴重なご経験を、本日皆様はされるのです。喜んで、お母様方もお嬢様を信じ、送り出して差し上げてくださいませ。
やがて、フルリーナは山の上の岩に穴があるのを見つけます。そしてよじ登って中を覗いてみると…宝石のように輝く石を見つけるのです。その石の中には光が閉じ込められ、何千もの虹になって煌めいていたのです。フルリーナは、日の光を捕まえたのです!フルリーナは家にかけ戻り、家族に見せると、皆その素晴らしさにうっとりと見とれたのです。やがてフルリーナ達は、夏小屋を後にして馬車に揺られて行きます。すると、あの鳥が、沢山の鳥に混ざって飛んできたのです。鳥はフルリーナにお礼を言っているように見えました。
「ウルスリのすず」もオススメですが、「フルリーナと山の鳥」の絵も内容も本当に素晴らしいです。
本日、お嬢様が、輝く石を見出され、いつまでもそのご経験がお嬢様のお胸の中で輝いておりますように。心からお祈り致します。頑張って来られた皆様が、第一志望校に合格出来ますように、心より深くお祈り致しております。