大学卒業目前の初めてのパリへの1人旅。同い年のHさんという女性と同室でした。彼女も1人旅でした。天使っぽい?愛らしいお顔の割にサバサバとして、気持ちの良い女性でした。さて、ツアーの一行の中に、スタイリストの女性Nさんとメイクアップアーティストの男性Sさんがいて、2人はお隣のお部屋でしたが、カップルというわけでは無く、あくまでも友人同士ということでした。いわゆる、お2人の間では女性同士だったのですね。ある日このお2人とショッピングをご一緒させて頂きましたら、Sさんがウキウキとした表情を浮かべ、キラキラとした瞳で、「ねえ、女3人のパリもいいじゃない?[E:shine]」と言われたのです。その言い回しは本当にインパクトがあったので、今でも耳の奥に残っております。…女らしい彼!本当に、「女」というものが、そういうものでもありうるということを、彼から教えて頂いたような感じでした。でも、私の回りにはいまだにあの彼のような「女」に近い方は居ないのですけれど。パリの滞在が数日続くと、このお隣さん達は、毎朝、私達のお部屋に来て、朝のカフェオレとクロワッサンを一緒に頂くようになりました。・・・ところで、私達は、バスルームにお洗濯したものを干していたのです。ある朝、何気なくSさんがドアの開いていたバスルームを覗き、「あらっ!」と悲鳴に近い声を上げました。若い私は、それを見て案外傷ついたのでした。彼、いや彼女はきっと「なんてはしたないの!」と思ったのに違いない…。または、2人のお洗濯物の、実用性を最優先したデザインに、同じ「女」としてガッカリしたのかも…。(落ち込んだ私も愚かでしたが、本当に当時はなりたい自分像のハードルも高かったのです。)
私はスタイリストのNさんにお願いして、ミディ丈のドレスを選んで頂くことにしました。Nさんはシックなグレイのシンプルこの上ないものを勧めてくださり、しかし、結局私は赤と黒のこれぞパリ、と勝手に印象を押し付けたものを購入してしまったのでした。…完璧に失敗でした!(今でもNさんのセンスは本物だったと納得するのです。)その日はお部屋でHさんも私もSさんにメイクして頂き、Nさんにアクセサリーをアレンジして頂いてそのドレスを着て、ホテルのあちらこちらで撮影会ごっこをして遊びました。たった2人なのに、お部屋が3つもあったのです。楽しい旅でのひと時。今でもその時のスライドは宝物なのです。
このお2人に、それから10年後に一度高田馬場の交差点ですれ違ったことがあります。相変わらず目立つ雰囲気で、あら!と思って振り返った時には足早に駅の方向に行ってしまわれました。私も赤ちゃんを抱いていて、声をかけることは出来ませんでした。
若い頃、未来を思っても靄の向こうにあるように何もよく見えませんでした。今、という現実の時が、ぴったりと自分に重なっているのを感じていました。
・・・現在、こうして若かった頃の自分を振り返ると、あの頃の自分には簡単には戻れない厚い層を感じ、息苦しいのです。若い自分に、せめて握手したいとも思うのですが、今からは考えられないような無謀な冒険家でもあった若かりし自分には少し、遠慮してしまう今の私がいるのです。・・・少なくとも、今の私は、絶対赤と黒のドレスなんて選びませんしね[E:happy01]