グレープフルーツ、アセロラ、ザクロ・・・などのフルーツの香りが漂い、水面にまで果実のオレンジ色が映っている・・・私は冷たい夜のホテルのプールに身を浸し、目を閉じている・・・・・・。というつもりをここ何年かバスルームで続けている私です。妹は「可哀想に。」と笑いますが、なかなかリラクゼーションを得られるような気がしております。そして、私の想像力は時間も空間も軽々と越え、あの島まで渡って行くのです。

本来海にはそれ程執着の無い私でしたが、息子が年少さんの時にニューカレドニアからさらに小さな飛行機で訪ねたイル・デ・パンの素晴らしさは、今でも夢だったのかしら・・・と思い出す島でした。真っ白な粉の砂と、どこまでも透明で美しい淡いアクアマリンのような水色の海。色鮮やかなお魚。砂浜に転がる真っ白なサンゴのかけら。サンゴは空洞化していて、ぶつけ合うととても良い音がしました。鮮やかな花々で作って下さった花冠を被り、鮮魚のお料理を頂いて。午後になると、真っ白な浜辺はただひたすら輝いて、もう肉眼では見ることが出来なくなっておりました。まるでフラッシュを連続でたいているかのような明るさで、昼という概念が覆されそうに、浜辺は無上の白い明るさに浮かび上がっていました。さて・・・その夜でした。息子が、そして主人までもがお腹の痛みを訴えました。そしてお熱が・・・。まさか、現地のお医者様に見て頂くとは思いませんでしたが、私はひとり、頂いた処方箋を持ってヌーメアの町までお薬を買いに行きました。まる2日、私は何度もタクシーや乗り合いバスに乗り、ひとりでウロウロと町中を歩き回りました。ニューカレドニアはフランス語ですが、「メルシー」ではなく、どちらかと言いましたら「メッシー」的な発音で、ラフな感じがしました。ヌーメアにはあまり多くのお店は無かったように記憶していますが、バスから眺めていましたら、おもちゃ屋さんがあり、私はそこで下車して、お熱は下がったものの、同じく回復してきた主人と室内で遊んでいなくてはならない息子の為に海賊セットを購入しました。紙で出来た海賊の帽子と、プラスティックの黒い眼帯、そして小さな剣とフックの手がついていました。そうです、これはピーターパンのフック船長になるためのセットだったのです。(このおみやげを息子は本当に喜んで、大事にしておりました。旅から帰った後もずっと遊んでおりました。)そして、私は母へのおみやげを探して、小さなAGATHAのお店に入りました。母はおしゃれな人でしたので、このお店で求めた、曲げて、さらに燻した感じのコインの連なったネックレスを大変喜んでくれたのを思い出します。ホテルに帰りましたら、主人と息子の笑い声でお部屋はいっぱいでした。当時、主人は毎日帰宅が遅く、土日もほとんど家にはおらずに、息子となかなか会えないような状態だったのですが、今でも「あの時から息子と仲良くなれたんだ。」とよく話しているのです。ある日の夕方、家族で海辺を歩いて行くと、移動遊園地があり、メリーゴーランドに息子と乗りました。それも、素敵な思い出です。・・・今、このようにお話しておりますうちに、時系列を超え、全てのこの思い出をまるで地図のように一枚の紙に描き込んでみたくなりました。

先日手に入れた「こねこのぴっち」の作者、ハンス・フィッシャーさんの「メルヘンビルダー」の素晴らしいグリム童話の絵のように(一枚の絵の中に赤ずきんの家を出るところから途中、オオカミと出会うところ、最後に猟師に助けられ、お庭のテーブルでおばあ様や何故かシカと一緒に食事をしているところまでが全て描かれているのです。)何故、絵が写真のようにある瞬間のみを切り取らなくてはならない、などと思い込んでいたのでしょう。1枚の同じ絵の中に違う時間に起こっていることを描き込むことで生まれる効果をまた六本木クラスでも楽しんでみようと思います。さらに・・・。ピカソの描く顔も、こうした様々な時間の制約を外した描き方がなされているのではないのだろうか、と、ふと考えました。モデルさんもずっと真正面だけを見せているのではなく、ふと横向きにもなったりする。その瞬間も同時に重ねて描いているのではないか・・・。そう思えたのです。はたして、本当にそうなのでしょうか。また調べることが見つかりました。そして、もしそうであるとして、文章においても、ピカソの絵のような文が書けないだろうか。とも思いました。例えば、今嬉しいと思っていても次の瞬間、別の感情が沸き起こる、常に変化する心を、文章を重ねることで表す詩などあっても良いのではないか。例えば、平凡な表現で恐縮ですが「心が躍る」という文と同じ高さで、出来たら視覚的にも文字を重ねて「一筋の哀しみ」という文を並列させるという表現法。または・・・あの素敵なトレーシングペーパーを重ねていく絵本「ブローチ」内田也哉子作 のように、透ける紙に印字された心の状態がどんどんと降り積もり重なっていく・・・という方法は・・・?

リゾートの夢のお話からは大分脱線してしまいましたが、皆様もお体にお気をつけられ、素敵な夏をお過ごし下さいね。思い出は、大事ですものね。私は人生の大事な時にいつも楽しかった思い出から頑張ろうという思いが生まれたような気が致します。潮騒に負けじと声を張り上げて交わした親子の会話。お互いのその時の声はいつまでも忘れないような気が致します。