先日の日曜日、朝、いつもの鶯とは異なる、それはそれは美しい小鳥のさえずりに心奪われ、ずっと聴き入ってしまいました。いったい、この美声の持ち主は・・・?そっとアイフォンに録音した声を頼りに調べているのですが、なかなか判明しません。何故なら、本当に多彩なフレーズの連続で、ひとつとして同じものが無く、ほぼ4分間、ひとつの曲を即興していると言っても良い程なので、鳴き声図鑑などでも特定しにくいのです。小鳥にも、美声の持ち主っているのでしょうか。まるで、自分の声の美しさを存分に楽しんでいるかのような歌声でした。

さて、深い深い森の中から響き湧き上がるような小鳥達の春のさえずりを調べているうちに、冬の間静けさを保っていた自然界の沸き起こるような生命のエネルギーに改めて興味を抱きました。例えば、野に咲く花。いわゆる「雑草」・・・。(「雑草」なんて、なんだか人間本位で失礼な表現にも思えますが。)火曜日にアシスタントの先生方と横浜山手のバラ園に寄り、バラを見て参りましたが、生まれながらにして、咲く場所も用意され、脅かす虫も取り除いてもらえる、そうした美しい鑑賞用のお花とは大きく異なる「雑草」。気にも留めていなかったこうした草花たちは、本当に誰も手入れなどしないのに、やはりバラ園でバラたちが優雅に扇やドレスを綻ばせているかのような同じこの春の季節に、たどたどしく、おびただしく生き競っている。ふと、立ち止まり、雑草たちを見ていたら、もっと彼らのことが知りたくなり<「雑草のくらしーあき地の五年間」甲斐信枝 作 福音館の科学の本>を読んでみました。

驚きました。そこに繰り広げられていたのは、私たち人間と変わらず、「生きよう」とする意思に溢れ・・・いいえ、「生きる」という意思を持つか持たないかという選択肢など、彼らには無縁のことであり、「生きる」為だけに存在し、また、在る為に生き・・・<虫に根を掘り起こされたエノコログサが、たった一本の細い根で、ぐらぐらする体を支えながら、浮き上がった根を、じりじりと土におろしていく。>ような個々の死闘もさることながら、種同士での集団での鬩ぎ合いにも目を見張るものがありました。虎視眈々と地下茎を伸ばし、地下から地上へと侵略を図るもの、落下傘部隊のように種を無数に飛ばしてその地を空から征服するもの、カラスノエンドウのように、必死で種を3,4メートルも弾き飛ばすもの、そして、折角成長しても、さらにその上に覆いかぶさるようにして生えた別種に太陽を遮られ死んでいくもの、死んでしまったと思った種類の草花が何年かの後、種として時を待ち、一斉にまた地面の中から芽を出していくもの。空き地には、そうした声無き闘いが繰り広げられ、この作者は五年間、じっと空き地に腰を据えて、来る日も来る日も観察を続けてこの作品を描かれたのでしたが、またしても、知っていたつもりになっていた「野の花」というものについて、その死に絶えたかに見えてもまた数年後に芽吹いてゆく凄まじい生命力と、その生きる場の戦略的で、時に暴力的ですらある、否応のない奪い合いに、「私は野の花のようにつつましやかに生きていきたい。」等の表現がいかに陳腐なものであったのかと省みた次第でした。

この本を読んでいて、ふと、最近聴いていたアルバンベルク四重奏団演奏のブラームスの<弦楽六重奏曲第一番第二楽章>の情熱的な旋律が浮かんで来たのは、偶然でしょうか。この曲はフランス映画「恋人たち」ルイ・マル監督にも使われ、ブラームス自身、憧れのクララ・シューマンにそのピアノ曲バージョンを捧げたロマンティックな曲の筈なのですが、草たちの「生きたい!生きたい!」という思いが、何だか畳み掛けるような旋律と重なってしまい、弦楽器の切実な語りが、揺らぎ、巻きつき伸びてゆく蔓や茎を思わせ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを演奏する動画を見てみると、まさに演奏者の動き一人一人がそうした野の花に化して見えてしまい(演奏者さま、ごめんなさい。)今度、この曲を使い、新たに始まった音楽院での集団身体表現に使えないものかとも考えました。
時間がどうしても足りず、今年からは年に10回と大幅に回数を減らした音楽院の授業ですが、土曜日に移行したことで、今年の受講者はやはり教育のお仕事に携わる方が多く、中には幼稚園の先生をなさりながら、週末栃木から参加されている方もいらっしゃり、出来る限り実践的な授業を、と考えております。先日のチョコリットの六本木クラスの授業で、条件画を扱いながら、お子様たちにも申し上げましたが、条件画の授業とは、絵が上手に描けるようになる為に行うのではなく、自身が考えたこと、思いついたことを周りの人に自信を持って伝えられる力をつける為に行うのであり、私が目指す幼児教育の重要な課題のひとつは、「お子様が自信を持って自己を表現出来、周りのお友達の考えを尊重し、楽しく響きあうことが出来る」ということなのです。音楽院では、今年度も絵本の世界と音楽、造形を融合し、子供達の自己表現力を総合的に培っていくことに焦点を合わせて参ります。絵本についても沢山、ご紹介したく存じております。6月2日は銀座ナルニア国の、あの素晴らしい絵本作家、降矢ななさんの講演会に伺ってまいります。どのようなお話が伺えるのか、今から楽しみです!

明日は年中さんの授業ですね。楽しく頑張りましょうね!雨が止みますように。