先日、お母様よりメールで新年中さんの男のお子さまが、盛んに質問されることについてお話して下さいました。そのどれもが本当に深い質問で驚かされました。こんな具合です…

「赤は何でできているの?赤と黄色を混ぜるとなぜ橙色になるの?水は色がないのになぜ海は青いの? タンポポのフワフワはどこに行くの? どうして蛇には足がないの?どうやって歩くの?」

赤を、赤、としてそれ以上の疑問を持たない私達大人に比べ、なんという曇りなき目なのでしょうか。そして、こうした疑問はとりわけ3歳から6歳の幼稚園のほとんどすべてのお子さまが抱くものなのではないでしょうか。お子さまが、小さな哲学者にみえることがよくあります。赤は本当に何で出来ているのでしょう。勿論、科学的なお話をしているのではありません。いえ、科学でも全ての仕組みは解けても、最終的に突き詰めた先のなぜ、という事は解らないのではないでしょうか。
本当に神聖な疑問であり、様々な分野への爆発的な興味へと繋がる種のようなエネルギーを秘めているのも感じます。

大学の恩師の文章は大変深く、とり分け神様について書かれていらっしゃるものは難しいのですが、このような、まだ神様とともに在るお子様の言葉から考えますと、スッと読み解くことが出来るように思われます。神様を失い、科学を信じた私達は、まず何よりも目の前にあることが全て、科学的に解明されるのだという確信を寄りどころに生き始めたのではないでしょうか。様々な神秘的な出来事が今は児童文学の世界でしか生き残っていないのも、この男のお子様のような、神様とともに在る人の住む世界であるからなのだと思います。プルーストの冒頭にある、全てのものに死者の魂が宿っているというケルトの信仰も、子供達には理解出来るかもしれません。日本のカッパや座敷わらしも、「借り暮らしのアリエッティ」も、赤が何故赤なんだろう、と思える人だけに姿を見せてくれるのかもしれないのです。今目に見えていないものは、いるわけが無い、という大人達には縁遠い世界なのです。
そんな、壮大な質問には答えられなくても、色に対して興味をお持ちの今を逃さずに、次回の授業では、『おやこ色彩楽』監修・末永蒼生 絵・真砂秀朗 日本ヴォーグ社を使って、それぞれの色の探検をしてみたいと考えております。また、セロファン紙を通して周りを見た感想も伺ってみたいと思います。『もしも ゆきが あか だったら』作・エリック・バテュや、『いろ いきてる!』文・谷川俊太郎  絵・元永定正も、今の彼には魅力的な絵本なのかもしれません。

赤が何で出来ているのか・・・。もしかすると、マザーグースの「What are little boys made of?(男の子って何でできてる?)」的にアプローチしても良いかもしれません。どなたか、お子さまにそんな詩を作って頂くことが出来ましたら、是非とも教えて頂きたく存じます。夕焼けの燃え立つような赤は、私に一日の終焉と明日の再会を告げてくれているような気が致します。紅葉したもみじは、何を語りかけているのでしょう。赤い色をしたものが、それぞれ、どんな気持ちでその色になるのかをお話してみるのも良いでしょう。

また、もし大人がお子さまに色の科学的な説明を上手に出来るとすれば、そのようにしてあげても良い筈です。その子が哲学者になるのか、画家になるのか、科学者になるのかは、そうしたお子さまの質問を大人がどう扱うかで大きく変わっていくのでしょう。「たんぽぽのふわふわはどこに行くの?」「へびはどうして足が無いの?」「足が無いのにどうやって歩くの?」「水は色がないのになぜ海は青いの?」これらの疑問の中にも、また、生物学・物理学・科学・宗教学等に繋がっていく要素が満ち溢れているのです。もし、これらをそれぞれの分野からの説明をお子さまにしてあげられ、お子さまが面白い!と目を輝かされるなら、他にも似たようなことで、面白い事は無いのか、親子さんで探索していかれてもよいでしょう。種の運ばれ方、動物の進化と退化、足が無いものの移動の仕組み、歩かなくても、物は様々な方法で移動するということ、目の錯覚が起こす面白い現象・・・などなど。是非、お子さまと楽しまれつつ、実際に出来ることがあれば、体験してみられることも良いと思います。
何でも、受験につなげて考えてしまいますが、立教小学校では、こうした物理的な動きがよく問われますし、お茶の水女子大学附属小学校では物の転がり方が、聖心女子学院初等科ではコマの回り方なども出題されています。

ところで、海の色は、空の色を映しているのだと聞いたことがあります。・・・本当なのでしょうか。もし仮にそうだとして、我々が見えている通りの色を絵に描きとめるのが絵画であると思うのですが、カメラで写すと、人間では無いのに、カメラも海が青いと騙されているような感じがして、少しばかり人間との距離が縮ったような気がして面白く思えて来ます。

最後になりましたが、シャーロット・ゾロトウの「かぜはどこにいくの」という絵本を是非とも呼んで差し上げて下さい。今回のブログの男のお子さまのような坊やが眠りにつく直前に様々な質問をしているのですが、その美しいやりとり、行きて戻りつするような波の動きのようなフレーズのうねりの心地良さは、『何事にも、終わりが無い。終わったところからまた続いていく、その繰り返しなのだ。』ということを伝えてくれる、本当に素晴らしい絵本です。