人は挑戦し、それを乗り越えることで、成長して行けるのではないのでしょうか。結果はあまり関係無いと思います。何かに挑む時の葛藤の克服にこそ、大きな意義が有ると思うのです。ある事にチャレンジする瞬間、人は「一体、この自分にそんなことが出来るのだろうか。」という畏怖の念を抱くでしょう。自己を信じる力、そしてまた、自己を受け入れる力がこの葛藤の場で増大し、そうした心の弱さに打ち勝とうとする。そのプロセスにこそ、それまでの自分を超えて、より確かに歩んでゆく為に必要な力を育くむカギがあると思うのです。
さて、こうした挑戦者にとって、自己を信じる力や自己を受け入れる力を支えてくれるのは、どのような人達なのでしょうか。ここでまた私の好きなあのムーミン谷シリーズの『ムーミン谷の11月』を例に挙げさせて下さい。
・・・すべてのことから超越し、どこからどこまでも魅力的なスナフキンのような登場人物とは対照的な人物がいるのです。本当に見ているとハラハラする程空気も読めず、弱い心でクヨクヨしているくせに、誰も彼のちっぽけな心に気が付いていないと思い込んでいる男、ヘムレンさん。でも、私はトーベ=ヤンソンの鬼才がここにも光る、実に人間味溢れる魅力的な登場人物として、彼を認識しています。そのヘムレンさんが、なんとある日、スナフキンに促されてヨットに乗りに出掛けてしまうのです。そして、大波に揺られ、恐怖に青ざめている最中、スナフキンは舵とりを彼に任せると言って、ただ水平線を見つめて舳先に座ってしまうのです。ヘムレンさんの涙ぐましい恐怖の克服は、笑ってしまってはいけませんが、身につまされて本当に興味深いのです。そして、彼は大波と格闘の末、急に舵をとれるようになり、無事にヨットは戻ってくるのです。戻った彼は、正直な気持ち、すなわちどんなに自分がこわかったのかをホムサに打ち明けます。このホムサ、実はヘムレンさんの恐怖など、最初からすっかり解っていたのです。ホムサがしたことは、そのヘムレンさんの感じている本当の気持ちを解っているということを、ヘムレンさんに悟られないように気遣い、ヨットの冒険から帰ってくるヘムレンさんがすぐに寝ることのできる寝床を用意することでした。そして、スナフキン。ヘムレンさんは、ホムサに言うのです。
「だけど、ぼくは、スナフキンには、そのことを(こわがっていること)、ちっとも気づかせなかったんだぜ。あいつは、ぼくが、大風をものともしないで、立派だと思ったに違いないんだ。」
自分を信じる気持が揺らぐ、ある大きなことへのチャレンジに際して、このスナフキンとホムサ2人の役割は本当に不可欠であると言っても良いのかも知れません。その挑戦を、ごくあたりまえのこととし、君には当然出来るのだという立場。一方で、思いやりとデリカシーを持って、聞き役に徹する立場。この挑戦の後、ヘムレンさんは、満足して晩秋のムーミン谷を後にして行くのです。
・・・余談ですが、ヘムレンさんを実は心から愛している存在があります。『ムーミン谷の冬』の中に克明に記されていますが、小さな小さな「はいむしのサロメちゃん」です。サロメちゃんは、ヘムレンさんをピンチから救いたい一心で雪の中に出て行き、埋もれてしまうのですが、彼女を救いだすヘムレンさんはとにかく大きい存在です。サロメちゃんには、解っているのかもしれません。『不安なんて、持っていない人、いるのかしら?』って。
2月28日、当教室では今年度初めての長時間の模試がありますね。終了時間まで元気に、しかも緊張感も集中力も保って頂くのには本当に大変だと存じます。どうか、お子さまの勇気の芽を大切に、小さな挑戦者を笑って送り出してあげて下さいね!教室にお預かりしました後は、長時間試験がそれほど大変では無く、これならば頑張れる!ということを感じ取って頂きますようご指導させていただきますね!