名古屋に住んでいる時、それはそれは優雅な住宅街の中の四つ角で、ある日、私は息子の中学受験の説明会が終了し、主人の車を待っていました。その時、すぐ目の前に、一台の車が静かに止まりました。私は、何気なく、運転席の方を見て驚きました。見事に真っ白になられた御髪をきれいに結われたご婦人でしたが、どう考えてもその時の私には90歳という年齢にも届いていらっしゃるかに見えてしまったのでした。私は、純粋に『よく、運転なさっていらっしゃる!』との驚きと好奇心から、目が離せなくなってしまいました。・・・私は、その時、どのような醜い眼をしていたことでしょう。すると、その方は、私に向かって、にっこりと微笑まれました。そして、なんと手招きをなさるのです。閑静な住宅街の、まだ午前中の穏やかな日差しの中、私はその車の御婦人に『一体何かしら?』と近づいて行きました。すると、御婦人は、こう言われたのです。「乗っていらっしゃい!ここは、タクシーは無理よ。どうぞ!」
完敗!・・・そう思いました。私自分を価値無いもの、と感じました。そして、走り去る車を見つめながら、いつかは私もあのような方に少しでも近づくことが出来たら・・・!と、強く憧れました。