台風のあった月曜日のお話の続きです。そうしているうちにも雨は強まったり、止んだり。朝、授業の有無のお問い合わせのあったお母さまにお電話で御無理されないようお願いしたところ、お嬢様が行きたい!とおっしゃるのでと、もうお連れ下さるところでした。恐縮です!『雨、どうかお願い!』と空に向かって願い続けました。

六本木に着き、お待ちしていると、こんな台風の日にも関わらず、続々とかわいいレインコート姿の皆さまがいらっしゃいました。本当に、お気の毒でしたが、こんな天候でもいらっしゃるそのお気持ちには、この受験に対しての気概が伝わってまいりました。
その日はお弁当指導の日でした。ですから、お母さま方はこんな台風の中、ご家庭で京都の料亭でもかなわないような愛らしいお弁当を作られていたのですよね。そのお気持ちを思いますと、心が熱くなりました。

そして、その日は、ちょっと、特別な積極性と協調性の開発指導を行いました。題して、「みんなの住む街」。まず、全員に簡単に折り紙で自分の家を作ってもらいました。そして、教室のフロアの透明シートの上ならどこにでも、家を建てても良いとの指示を出しました。そして、今度はみんなで一枚の大きめの画用紙に公園の絵を描いてもらい、それを街の中心に置きました。そして、ここからが大事なのですが、「あなたと、お友達の家が自由に行き出来るように、また、公園にも行けるように道を作りましょう。」と言って、道のパーツを渡したのです。結果はちゃんと共同体も生まれ、公園にも道は通りました。この、「みんなの住む街」。私がもしも試験官で、試験当日、40人程のお子さまたちが居たとしても、この課題に挑戦している態度でその子の特性が解るような気がします。例えば、その日の課題でもあった「周りのお友達が見える子」。遠くに家を建ててしまったお友達の為に、一生懸命に道をつなげようと最後まで頑張る、等見ていてうれしくなってしまうような行いをするかどうかは、練習如何では追いつくものではなく、しかしながら一番試験官にアピールする点のひとつだと思うのです。以前お話しました、ミッション系小学校の合格者が、皆胸を打つようなエピソードを持っているとお話しましたが、それとも切り離せないことだったのです。お行儀、積極性、道具を大事に・・・それに、プラスアルファの何かが評価されるとしたら、簡単なようで一番厳しいおもいやりの心も試されているのではないでしょうか。
この「みんなの住む街」は、慶応幼稚舎の過去の類題でもあります。

台風の翌日の火曜日に、お弁当指導の評価シートに、お子さまお1人お1人のお顔を思い浮かべてコメントを書かせて頂きましたが、どのお子さまも、ご自分の中の恥ずかしい気持ちや心配な気持ちとの葛藤の後に、一歩一歩それを克服されているのが伝わってまいります。集団制作の相談の時に、ちゃんとお声が出せるようになって来た方。笑顔が素敵になって来た方。その原動力は、何でしょうか。それは、やはり「お母さまが大好きな気持ち」なのです。先日、美しいメールを頂きました。そのお母様とお子さまは説明会の帰りに、小学校の敷地に咲くお花をお二人でご覧になり、そのお花で遊ばれた子どもの頃のお話をされたのです。どんなに、お子さまはホッとされ、その小学校に愛着を持てたことでしょう。なんて、素敵な親子なのでしょう。そのお話を伺い、私も、頭が下がる思いでした。こんなに幼いながらもひとつの目標に向かって向上の努力を積んでいく。私はこれまで、初めてお会いした2,3歳の時には、本当に愛らしさの塊であったお子さまが、秋になり、ピカピカと光る目を持ち、凛とした姿で合格されていくのを見てまいりました。植物に例えたら、今音を立てて急成長し、花を咲かせる時なのです。お母さま、お子さまは頑張っていらっしゃいますね。その力を信じつつ、その姿を見つめ、和らげ、包んであげましょうね。とても難しいことですが。